飲食店に於いて、1軒にとどまらず何軒もハシゴしたがる人種、ハシガー。
軽く1品だけ食べてサッと席を立つ。
軽く1杯だけ飲んでサッと席を立つ。
そしてそれを何軒も繰り返すのです。
彼らは決してグルメブロガーではありません。時間がないので一晩で何軒も訪れて、一晩で1週間分のネタを収集するグルメブロガーとはまた異なる人種なのです。
サッと食ってサッと帰る事にロマンを感じている人達なのです。
ハシガーは熟年層に多いのも大きな特徴です。
もしくはそんなハシガーに連れまわされた、ハシガーに憧れる30代後半以上の人達です。
そんなハシガーの1人、Mさんの同行取材に成功しました。
Mさんは現在51歳、ハシガー歴10年というベテランハシガーです。
彼との待ち合わせは20時、繁華街のコンビニ前で集合し、すぐ近くの居酒屋へ入りました。
アテ3品付きのビールセットなるものをオーダー、Mさんの「いつものやつしてや」の一言でこれが席へ運ばれてきます。
「ワシはな、この店はこれしか注文した事ないんや」
得意げに話すMさん。
するとビールを飲み干し、アテにほとんど手をつけてない状態で、早くも席を立とうとするのです。
「いこっ、次いこっ」
「しゃーけどまだ食うてませんやん」
「ええからええから、次で食うたらええから」
私たちはビールを飲んだだけで席を立ちました。
これならビールセットではなく、ビールだけを注文したら良かったのではないでしょうか。
Mさんが言います。
「ビールだけやったら悪いヤン」
なるほど、さすがに1000円ぐらいは使わないとお店に申し訳ないという考えのようです。
次に訪れたのは焼肉店、生ビール、キムチ、塩タン、ホルモンを注文。
私が肉を焼こうとすると「ええからええから」とMさんが焼いてくれます。
彼はハシガーであり焼肉ブギョーでもあったのです。
しかも食べる分だけ焼くのではなく、全部ドバッと網の上に置いてしまう方のタイプの焼肉ブギョーだったのです。
このタイプのブギョーは非常に迷惑なのですが、文句を言うと今後連れてってもらえないので、焦げないように黙ってサッサと食べなけれはなりません。
私がトイレに立った間に会計が済まされていました。この辺りのスマートさがハシガーの大きな特徴でもあるのです。
次に入ったのは、女の子が常時10人ほど居るというそこそこ大きめのラウンジ。
ここでも水割りを1杯だけ飲んで次の店に向かいます。
本当はこのお店で歌を歌いたかったというMさん。
しかし先客が盛り上がっていたためにサッと店を出たというのです。
ハシガーは自分が主人公にならなければ面白くない人種のようです。
次のスナックはママと20代アルバイト女子の計2人の小さなお店。先客は居ませんでした。
ここでMさんは3曲を熱唱、水割りを4杯いただきました。
このお店がもっとも滞在時間の長いお店となりました。
やはり他に客が居なかった事で、自身が主人公となれた事が大きな要因だったと思います。
その後、私たちは水割り半分程度で店を出るスタイルで、スナックを2軒ハシゴし、最終ラーメン店でビールとラーメンで締めたのです。
この日実に4時間で7軒のお店をハシゴした事になります。
しかし何故こんなにも次々と店を変えるのでしょうか。
Mさんにそのあたりを聞いてみました。
私 「しゃーけどころころ店変えていそがしですね」
M 「これが俺のスタイルや」
私 「なんでころころ変えますん」
M 「そなもんたまには顔出したらな悪いヤン」
私 「悪い?」
M 「せや、ちょっとでもええから顔を出して安心さしたらなアカンがな」
どーやら定期的に少しでもいいのでお店に顔を出す事で、お店への貢献をしているというのがMさんの答えでした。
確かに短時間に数多くのお店に顔を出すためには、こういう方法しかありません。
私 「普段からずっとこんな感じなんすか?」
M 「せや」
私 「誰とでも?」
M 「誰とでもちゃう、特定の人とだけや」
どーやら後輩や部下との会食時のみ、ハシガーになるようです。
結局のところ、後輩や部下にエエカッコしたい為に取る行動というのが真理のようです。
ハシガーしている自分に酔いしれているのでしょう。
横から見ていて、そんなにカッコエエとは思わないのですが、しかし自分がハシガーとなって、後輩を連れまわすイメージをした時、何となくその気持ちもわかるような気がしました。
私も立派なハシガーになれるのでしょうか。