2010年9月27日月曜日

タバコ事件

中学2年の春、その日珍しく練習に遅れてきたヨボが体育館に入るなり一言
「全員職員室に来いって…」
ヨボは体は細いのにお腹だけがポッコリ出ていて、ヨボヨボ歩くのでヨボと呼ばれていたバレー部の同期部員。
放課後、バレー部の練習に来る途中で、先生の持ち物検査に合い、ポケットの中の煙草が見つかってしまったと言うのだ。
しかも部室でバレー部の同期数人で吸った事を自供してしまったらしい。
そう、ヨボは体型だけでなく性格的にも少しヤボったいところがある、皆そんなヨボにキレながらも、これから起こるであろう職員室での尋問に対する打合せを始めた。

キャプテンはイグオ。イグオは俺と同じ小学校出身で、小学校時代から身長が165㎝もあって、当時県大会でもベスト3に入ってた我が中学バレー部からの猛烈なラブコールで入部したエリート。
そんなイグオと小学校時代から親友だった俺は彼に誘われるままバレー部へ入部したのだ。
 イグオの案で全員がシラをきる事となった。
今思えば既にヨボが自供した後なので、かなり無理のある作戦だったけれど皆イグオの案に合意した。
 職員室に着いて、ヨボだけが隣室の校長室に入ったっきり我々は30分ほど待たされる事に。

バキッ!ドドン!

何か鈍い音が聞こえてくる。
いったい隣の校長室で何が起こっているのか、残された我々4人は誰も何も喋ろうとせず、ジッと時間が経過するのを待っていた。

当時の我が中学校は荒れ放題という言葉がピッタリで、新聞沙汰なんて日常茶飯事、あちこちのガラスも割れてるし暴力事件が耐えなかった。
ちょうどその頃から何とか学校のイメージを立て直そうと先生達がやっきになっていたのだ。
入学式で私語をしていた同級生が、ステージで先生にボコボコに殴られていたのが強烈に印象に残っている。

「次!おまえ入れ!」

職員室に入って35分が経過した頃、いよいよヨボ以外の部員が校長室へ呼ばれたのだ。
しかも俺を指差している。
「俺?」と言うと
「おまえだけや」
その言い方は自信に満ち溢れていた。
何か確信を掴んだようなそんな印象だった。
恐る恐る校長室へ入ってみると、先生が10人、中央に置いてある尋問用の椅子を囲んで座っている。尋問用の椅子の正面には保険体育の先生が少し笑みを浮かべながらムキムキの腕を見せびらかすように腕まくりをして座っている。
ふと脇に目をやると顔をボコボコに腫らしたヨボが座っていた。
俺はその痛々しいヨボの顔を見た瞬間、全身から戦意が失せていくのを感じた。

「煙草吸うたんか?」
俺を尋問用の椅子に座らせるなりムキムキの保険体育の先生が質問してきた。
「いえ吸ってません」
バキッ ボコッ
こめかみと鼻に拳が飛んできた。
鼻への一発はモロにヒットし俺は椅子から吹っ飛び、床に倒れ込んだ。
床一面に鼻血が噴出し、血まみれで倒れ込む俺に
「吸うたんやろ!」
容赦なく質問を浴びせてくる。
「はい」
この状況でシラをきるなんてナンセンスである。
おそらく認めるまで殴られ続けるだろう。
俺は2発殴られただけでアッサリと認める事にした。
それに血の量が尋常じゃなかったので、先生達も少したじろいだのだと思う。
それはこの後呼ばれる部員達への対応を見た時に確信する事になる。

次に呼ばれたのはわーくん、彼がドアを開けると左手には顔をボコボコに腫らしたヨボ、右手床には血まみれの俺が倒れ込んでいる。床一面に飛び散った血。
彼は俺よりも早く戦意を失ったはずである。
ところが顔面2発、倒れ込んだところへ顔面蹴り上げ1発、計3発もらうまで認めなかった。

次呼ばれたのはツーちゃん。
ツーちゃんは中学生とは思えないほどムキムキで、先輩30人に集団リンチを受けたのに全員を倒してしまったという武勇伝を持つ男。
なのにロマンチストでアニメ好きという一面も持ち合わせている。
「お前も吸うたんやろ」
「いいえ」
バシッ ボコッ
「吸うたんやろ!わかっとんねんど」
「吸ってません」
バキッ ボカッ
やっぱツーちゃんは凄かった。
何発殴られても微動だにしないのだ。
それどころか先生達の手が痛そう。
その後も何人かで交代で殴り続け、10発目あたりでついにツーちゃんも観念して認めたのだった。

最後はキャプテンのイグオだ。
彼もこの無惨な光景を目の当たりにすればすぐに認めるだろう。誰もがそう思っていたし、これを見てまだシラをきるなんてバカげている。
ところがイグオは認めなかった。
何10発も殴られ続けても認めなかったのだ。
さすがキャプテン、しかし往生際が悪すぎひんか?キャプテン。
もう全員がキミも共犯だと自供済みである。
「もうええから認めろ!認めとけ!」
おそらくこの部屋にいるイグオ以外の全員がそう思ったであろう。

30分程してイグオが認めると、今度は全員の親が校長室に入ってきた。
俺がこの部屋に呼ばれる前に全員の親に連絡し、別室に呼んでおいたのだとか。
親父が来ていた。
その後、今回のメンバー全員が1週間の停学処分と告げられ、ヨロヨロと校長室を後にした。

帰り道、運転しながら親父が初めて口を開いた。
「まぁ俺もおまえぐらいの時に煙草吸うとったからな、えらそうな事は言えんけどな、警察沙汰になるようなことだけはすんな。」

俺は助手席で小さくうなずく事しか出来なかった。

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