2015年3月27日金曜日

声が小さい

近鉄電車に揺られている時、左側隣のカップルの楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
まだ付き合い始めか、それこそまだ付き合うまではいっていないながらも、今後そういう展開になる2人なのかは知りませんが、いずれにしても楽しそうな笑い声です。
しかし、聞こえて来る会話はほんの一部だけで、98%は何を言って盛り上がっているのかはわかりません。
「どんなけ声ちいさいねん!」
別に聞きたいわけではありません。
正直何を喋っているのかなんてどうでも良いのです。
どうでも良いのですが、隣に座っているのに聞こえないというのは声が小さすぎて心配になります。
その証拠に、向かい側の3~4人斜め向こうのカップルの声はハッキリ聞こえています。
距離にすると2~3mは離れているのにです。
なのにすぐ隣のカップルの声はほとんど聞こえないのです。
向かいに座ってる女子の、イヤホンから漏れる音楽は聞こえているのにです。
しかも、カップルなのだから、せめてどちらか1人の声が聞こえてきてもいいはずなのに、どちらの声もほとんど聞こえないのです。
あまりにも気になるので、目を閉じ、呼吸を最小限にし、心臓の鼓動を60%まで減らし、血液の流れも半分以下にし、右側の耳の機能を完全に停止し、左側の耳を少し膨張させ、さらにそこに全神経を集中させ、邪念を全て捨てた状態で、彼らの話を聞いてみました。
すると話している2人の向こう側の人の呼吸が聞こえてくるのに、2人の声はほとんど聞き取れなかったのです。
2人は決してコソコソ喋っているわけではありません。
2人とも本当に声が小さいのです。

声が小さい人は確かに存在します。
しかしそのほとんどは、人から注目を浴びたいという邪念から、あえてボリュームを落としている人達です。
大きい声も出るくせに、わざと小さくしているのですから、だいたいは嫌われています。
また相手が聞こえ辛いのではないかという配慮が出来ない、自己中心的な人も同じです。
自分の事しか考えていませんから、当然こういう人も嫌われています。
しかしながら、大きな声を出したくても出せないという人も存在しています。
一般的な人よりも、声帯が極端に小さいとか、腹筋があまりにも少ないとか、人の何倍も聴力があって、聞こえすぎてしまうなど、なんらかの身体的な理由により、大きな声を出せない人。
また、なんらかのトラウマによって、大きな声を出す事に恐怖心を抱いている人。
こういった人達なら、前述の自己中心的な人とは別に、仕方のない話です。
電車内の彼らは、どんな理由で2人とも声が小さいのかはわかりません。
しかし2人ともに非常に聴力が優れていて、お互いの声が聞こえているのですから、素晴らしい関係だと思います。

昔、先輩で自己中心的に声の小さい人がいました。
その先輩から飲みに誘われるのが苦痛で、よく理由をつけては断ったものです。
それは彼が喋る事の95%は聞こえないからです。
初めのうちは何度も聞き直していましたが、何度も何度も聞き直してもそれでもハッキリと聞き取れず、それは彼がこちらが聞こえないと言っているのに、ボリュームを一切変えないからであって、そのうち怒りだすので、聞き直す事をやめ、聞こえているフリをしていました。
聞こえているフリだけで何時間も飲みの相手をするのは、本当に辛いものです。
聞き取れないので、彼の表情を見て直感だけで、それに合ったリアクションや返事をしなければなりません。
それはそれは苦痛な時間です。
もしも電車内の彼らのうちどちらかが、聞こえていないのに合わせているだけなのなら、これはただの悲劇としか言いようがありません。
これに関しては、本人にしかわからない事なので、我々が心配しても仕方ない事です。
もしもそうだった場合、いつか「声が小さい」というワードを検索し、このコラムを読むはずです。
その時のために、この文章を書き残す事にしました。