2014年4月30日水曜日

田川

田川に出会いました。
電車に田川が乗って来たのです。
20代前半、世の中に怖いものなんて無いと思っていた頃、田川とよく遊んでいました。
田川は1つか2つか少し年下だったはずです。
いつも新しい裏ネタを探してきては、情報をくれる、そんな友人でした。
彼とは何か気が合い、一緒に悪いことばかりをやっていたような記憶があります。
かれこれ20年は会っていないと思います。
お互いに街で出会っても、20年という月日が、当時の面影を消し去り、おそらく気づかないのではないかと思います。
連絡先すらわかりませんので、今会いたいと思っても、会いようがないという状態です。
そんな田川が、電車に乗って来たのです。
バッと顔を見た瞬間「田川や!」と思いました。
「田川や!絶対田川や!」
私は3人ほど向こうに立っている、田川の顔をマジマジと見ます。
どう見ても田川です。
しかし20年という月日が流れています。
本当に田川なのでしょうか。
もしも声をかけて、田川では無かった場合、非常に恥ずかしい思いをします。
私は声をかけるか悩みました。
もう一度、スーツ姿の田川を、上から下までマジマジと観察します。
ワイシャツもスーツも靴も鞄も、田川にしては少しダサい気がします。
やはり田川ではないのでしょうか。
特徴的な顔立ちの人なら、さほど悩まないとは思うのですが、田川は妙に顔が整っており、よく似た感じの人はいそうな気がするのです。
なので余計に悩みます。
当時から田川は、ファッションにはうるさい方では無かったはずです。
なので目の前にいる田川っぽい男性のファッションが、多少ダサくても問題はないのです。
問題はないのですが、あの器用になんでもこなす田川が、普通のサラリーマンをやっているとも思えません。
彼ならヤクザにでもなったか、あるいは風俗店を何店舗も経営していているような、そんな印象を持っていましたので、目の前の見るからに真面目そうなスーツ姿の彼が、絶対に田川であるという確認は持てなかったのです。
もしも道を歩いている時なら、迷わず声をかけたでしょう。
仮に間違っていても、すぐに立ち去れば、恥ずかしい思いをしなくでも済むからです。
ところがここは電車内です。
間違ってしまうと、乗っている間に大変気まずい思いをするのは目に見えています。
そうこう悩んでいる間に、彼は電車を降りてしまいました。
一緒に電車を降りて、追いかけて声をかけようかとも一瞬思いましたが、やめました。
もしも次に偶然どこかで会えば、それは運命として間違いなく声をかけようと思います。